総入れ歯の基礎と臨床について講演しました

総入れ歯は歯が全てなくなった無歯顎症の方のための入れ歯です。その入れ歯がうまく機能しないと食べる・しゃべる・笑顔ができず、日常生活に支障がでる困った疾患です。

このようにさせてしまったのは歯科医療の敗北であり、これを治せるのも歯科医師しかいません。無歯顎症は、一般的にはとても難しい治療で、よく入れ歯とインプラントの治療が比べられていますが、比較にならないほど異なったコンセプトの治療法なんです。

最近の総入れ歯治療へのイメージとIPSGの総入れ歯

最近は総入れ歯による治療が見直されているようです。それは手術が必要がなく清掃性がよく自分で管理できるところにあります。

IPSG研修会では、とても予後がよい総入れ歯の治療法を推奨しています。それは「究極の総義歯」といい、ちょっと大げさなネーミングかもしれませんが患者さんが満足するだけの生体に対応したすごい方法なんです。

図12 図13

総入れ歯の研修での講演内容

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今回、総入れ歯についての講演では、IPSG代表の稲葉教授と初めてコラボレートさせていただきました。

総入れ歯治療は歯科医療の中では最も大きい範囲の修復治療で、歯科医師の解剖学知識と手技、技工士の製作精度のハーモニーが重要です。また、日本の総入れ歯治療の歴史は1500年代に紀伊和歌山でツゲでできた総入れ歯が発見されたことから、世界でも最も古いことでしられています。日本の歯科医師としては得意でなければならないでしょう。

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私の担当は、歯の無くなった顎の骨の分析・人工の歯の設定法・入れ歯の床の製作法についてでした。

まずは顎の骨の分析です。人間は歯がなくなると、上あごは内側に小さく、下あごは外側に大きく骨の吸収の傾向があります。吸収した骨の空間を補うのが、入れ歯の赤い「義歯床」と言われ、この空間をもとに補うことができます。まずは解剖学的な変化を知ることを理解します。

図4

皆さんは医院で口の中の型を採ったことがあると思いますが、私たちはそれを綿密に分析します。この場合は歯がないので、顎の骨の「歯槽骨」を診ますが、各個人それぞれに個体差があり、その特徴を理解することで、症状の難易度が分かり、計画を立てるのに役立ちます。

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上下の口の中の型を咬合器につけると、上下の歯槽骨の位置関係はもちろん、顎関節との関係の状態をより客観的に評価できるのです。

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初診の状態にもよりますが、前歯があった時の位置はわからない状態で来院されることが多いようです。そのような時、人工の前歯並びの基準は、人間の平均な値と上下同時に型どりした唇の模型を参考にして並べます。

違和感のない前歯並びはバランスが大切で、審美的によく発音も適切にできることで他者とのコミュニケーションに重要な役割をします。

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人工の奥歯の歯並びが悪いと舌を咬んだり、食物が塊になりにくく奥歯で良く咬めません。そのようにならないように、舌と頬筋の間に邪魔のないところに並ばせる基準があります。また、咬合器に水平に左右均等に並べることにより、咀嚼筋や顎関節の安定も考えて配列しています。

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人工の歯並びは、元チュービンゲン大学補綴科教授 シュトラック先生の方法を基準としています。半世紀の歴史がありますが、生体にバランスのとれた方法です。

歯と顎の骨がなくなり入れ歯の入る空間を「デンチャースペース」と言います。そのスペースにある顎の骨と周囲の筋肉を隅々まで型どりすることが入れ歯の安定にはとても大切なんです。

それには上下顎に口を閉じて同時に圧力をかけ、患者さん自身の力で頬や唇の周りを型どり、さらに嚥下して舌の動きの範囲までわかるようにします。この方法を「上下顎同時印象法」と言い、他にはない画期的な方法なんです。

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義歯床は顎の骨の代わりをするとともに入れ歯が動かないように周囲をピッタリ閉鎖することが必要なので寸分のズレも許されません。

この方法は、6気圧3トンの圧力をかけてレジン樹脂の過不足を補正し、重合方向を一定化して重合するため精密で高強度に仕上がります。そのため入れ歯の厚さを限界まで薄くでき、不純物がなくとても清潔です。

このように、総入れ歯治療は、歯科医師の解剖知識・卓越した術式と、技工士の精密な製作法によって、患者さまの笑顔につながるものです。来月は、実際の被験者の協力を得ての実践的な研修を行います。

千葉県松戸市 ひかり・歯科クリニック

投稿日:2015年6月29日|カテゴリ:講演・発表 活動, 院長ブログ